カテゴリ:業界ニュース / 投稿日付:2022/12/23 09:28
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銀行の不動産業参入問題をレビューする!
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今年も税制をはじめとする政策要望活動が佳境を迎えている。
税制改正等とあわせて、全宅連(坂本久会長)があらゆるシチュエーションで訴えているのが「銀行の不動産業解禁の阻止」だ。これまで問題が顕在化するたびに阻止してきたが、銀行の規制改革要望は繰り返されており、依然として予断を許さない状況だ。
本稿ではあらためて、これまでの銀行問題対応の歴史を振り返り、問題意識を共有したい。
不動産業解禁報道の衝撃 「銀行に不動産業を認める」
平成9(1997)年1月10日付け日経新聞の見出しが不動産業界を震撼させた。
景気の足踏み状態が続いていた当時、バブル崩壊後から尾を引いていた金融機関の不良債権処理問題が大きな懸案となっていた。その対策の一つとして、金融機関に持ち株会社の子会社を通じた不動産仲介業務を解禁するとの報道がなされたのである。
大蔵省(現財務省)は検討の事実を否定したが、不動産業参入をもくろむ金融業界から何らかの圧力があったのは間違いないと思われた。
全宅連では急遽要請書を策定し、全国の宅建協会と連携を図りながら関係方面に対する反対要望活動を展開した。結果的に、報道された法改正が実現することはなかったが、これ以降も金融機関の不動産業参入議論は、その時々の社会状況を背景にさまざまなかたちで浮上する。
本稿では、全宅連がこの問題に対峙してきたこれまでの取り組みを振り返ってみたい。
規制改革ムードに乗じた解禁の動き
銀行の不動産業解禁報道があった2年後の平成11(1999)年、今度は金融審議会(金融庁の諮問機関)が銀行の業務規制緩和に切り込んだ。
バブル崩壊後、政府は成長への原動力を各種規制改革に求め、平成11年3月、「規制緩和推進3か年計画」を策定。同計画のなかで「普通銀行等による信託業務の全面解禁」が打ち出された。
信託業務にはいわゆる併営業務として不動産の仲介業が含まれており、専業の信託銀行等にしか認められていない。もし普通銀行に信託業を解禁すれば、銀行の不動産業参入を全面的に認めることになり、中小宅建業者への影響は計りしれない。前掲の平成9年の新聞報道はあくまでも一報道に過ぎず、表向き公式な議論ではなかったのに対し、今回は政府の検討機関で堂々と提案されたものであり、業界としてもより深刻な受け止めがなされた。
全宅連では、普通銀行への不動産仲介業解禁を断固阻止すべく緊急決議を実施し、当時の金融庁長官や建設大臣をはじめとする主要関係者に対し強力な反対運動を行った。その結果、信託業務の一部は門戸が開かれたものの、不動産仲介業は対象外とされ、その旨が信託業務兼営法に明記されることとなった(それ以前は事務ガイドラインの記載に留まっていた)。また、あわせて検討されていた処分型不動産信託の解禁についても、不動産証券化に関係するものに限定され、業界への影響を最小限に食い止めた(前ページ図表1)
「蟻の一穴」とならぬよう…
1990年代末から始まった低金利政策等の影響により、銀行の最も基本的な収益である貸し出し収益は、その後、十数年で大幅に減少した。こうした状況のなかで、特に預貸業務への依存度が高い地方銀行においては、不動産仲介等に参入し手数料ビジネスで活路を見出したいという意向が強まっている。地方銀行の団体である全国地方銀行協会は、近年になって毎年のように政府の規制改革会議に対し業務規制緩和の要望書を提出しており、その都度、全宅連が反対のアクションを起こしてきた。
銀行協会の要望内容は毎年ほぼ同じである。一義的には、不動産業の全面解禁を求めているが、少なくとも銀行が扱う事業再生や事業承継に付随した不動産取引を認め、利用者の利便性を図るべきだと主張している(図表2)。地方銀行としては、地域の困っている分野にコミットし、顧客サービス向上という世論的に受け入れられやすい切り口で、なんとか突破口を見出したい意図があるのだろう。
しかし、たとえ一部でも解禁されれば、それが蟻の一穴となって、なし崩し的に拡大していくことは火を見るより明らかである。業界としては絶対に容認できない。
自民党内での議論に危機感
全国地方銀行協会の一連の要望に対し、所管の金融庁は「直ちに措置することは困難」との回答を示してきたが、令和2(2020)年4月、今度は自民党金融調査会のプロジェクトチームにおいて、銀行の業務規制緩和が提案され、再び業界に衝撃が走った。
提言案では、「銀行グループと(銀行以外の)事業会社とのイコールフッティングを確保する」観点から、銀行が行う事業再生や事業承継支援の過程で生じた不動産取引について、銀行自身による仲介を認めるべきとしている。あわせて銀行が保有する不動産の賃貸自由化についても言及し、これらを党の成長戦略に盛り込むことが提案された。
全宅連ではあらためて会員の総意を結集し理事会で反対決議を行うとともに、坂本会長が先頭に立って、菅官房長官(当時)をはじめ関係方面に対し強力に反対を訴えた。こうした活動が実を結び、いずれの項目も提言案から削除された。
さらに、同年の銀行法改正で提案されていた銀行子会社(銀行業高度化等会社)の業務範囲拡大について、これに不動産業が追加されるのではないかとの懸念が全宅連の役員会で出された。銀行法上、銀行子会社に不動産業を認めていないことは明確であったが、直近の銀行問題を巡る動きを踏まえ、念のため国交省に対し業界の懸念を伝えた。その結果、あらためて銀行本体・銀行子会社の業務範囲に不動産業が含まれない旨が確認され、改正銀行法で提案されている「銀行業高度化等会社」についても不動産業務は対象とならないことが、銀行法施行規則および監督指針に明記されることとなった(図表3)。
学ぶべきアメリカの対応
以上が、直近までの状況であるが、おそらく今後も銀行業界の動きは絶えることがないであろう。
全宅連では、今後の展開を見据え、令和3(2021)年度に学識経験者を交えた銀行問題研究会を設置。銀行が不動産業に参入することの問題点等について報告書をとりまとめた。論点はいくつかあるが、最後に以下の点を指摘し、まとめとしたい。
1. 銀行の不動産業参入は間違いなくモラルハザードをもたらす。市場の価格破壊のみならず、不動産と自行ローンとの不当な抱き合わせビジネスや利益相反等、消費者および社会にとっても負の効果をもたらす可能性が高い。
2. 米国では、我が国同様、永年不動産業界と金融業界との間でせめぎあいが続いていたが、2009年、NAR(全米リアルター協会)の主張が受け入れられ包括歳出法が成立。銀行による不動産業参入が明確に禁止された。サブプライムローン問題等を通じて露呈した銀行のモラルハザードが背景にある。我が国もこの事実を重く受け止めるべきだ。
【最新動向】
銀行の不動産業参入議論 政府が慎重姿勢を表明
自民党の宅地建物等対策議員連盟会長である山本有二衆議院議員は、令和4(2022)年6月1日、銀行の不動産業進出について、政府の見解を明らかにするよう質問主意書を提出した。
これに対し、令和4年6月10日、岸田文雄・内閣総理大臣名で以下の内容の答弁書が発出された。
◆銀行は、銀行法第12条の規定に基づき、その業務として当該宅地建物取引業を営むことはできない。銀行が当該宅地建物取引業を営むことは、銀行の健全性の確保や利益相反が生じるおそれ等に十分留意する必要があるため、「不動産仲介業参入」については、関係者の意見を踏まえつつ、中長期的な検討を要するものであり、直ちにこれを認めることは困難である(抜粋)。
◆銀行の「保有不動産の賃貸自由化」については、金融庁が定めた監督指針に基づき、銀行の保有不動産の賃貸に係る業務が、銀行法10条2項に規定する「その他の銀行業に付随する業務」の範疇にあるかどうかを判断することとしており、銀行が無制限に当該賃貸に係る業務を行えるものではなく、引き続き監督指針に則り当該業務の該当性について判断してまいりたい(抜粋)。
上記回答は国会法74条のいわゆる質問主意書のルールに則り発出されたものであり、閣議決定を経ている。
今後、銀行問題が議論される場合には、上記回答が政府見解として無視できない論拠となる。
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本日は以上となります。
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次回もどうぞお楽しみに!
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